世界を魅了するHARIO(ハリオ)、日本で唯一の耐熱ガラス工場を見学しました

2019/07/10

休日の昼下がり、お気に入りのドリッパーに粉を入れてお湯を注ぐ。コーヒー専門店に負けない特別な一杯を抽出する楽しみを叶えてくれるのが、HARIOの耐熱ガラス器です。世界トップクラスのバリスタやコーヒーブリュワーに熱烈な愛用者が多いHARIOは、実は国産ブランド。コーヒーファンをトリコにしてやまないHARIOの耐熱ガラス製品は、どんな場所、どんな人たちの想いによって作られているのでしょう。HARIOのものづくりの現場を訪ねてみました。

“ガラスの王”をめざして1世紀、HARIOとは

HARIOは大正時代・1921年に創業し、日本で初めて耐熱ガラスの開発に成功した老舗メーカーです。
身近な製品ではコーヒーや紅茶、日本茶をさまざまなスタイルで楽しむ器具のほか、キッチン&テーブルウェア。専門分野では創業時からの理化学用品や、自動車のヘッドライトのレンズ。また、ハンドメイドのガラスのアクセサリーや、高度なガラス工芸技術を駆使したガラスの楽器製作でも話題を集めています。

HARIOの社名の由来は、「玻璃(はり)王」。玻璃は古代から珍重された水晶や古代ガラスのこと。
その名にふさわしく、クオリティの高さから商品バリエーションの広がりまで、まさに“ガラスの王”といえる存在です。

コーヒーとともに時代を創り続けるHARIO

HARIOといえば、日本のコーヒー文化を牽引してきたブランドでもあります。

HARIOの歴史にコーヒーが登場したのは、1948年のこと。その出発点はコーヒーサイフォンでした。
HARIOの耐熱ガラスが映えるサイフォンは、高度成長期の始まりとともに個人経営の喫茶店や珈琲専門店が次々に誕生した当時、たいへんな人気を博しました。

やがて家庭で淹れるコーヒーが身近なものとなり、今HARIOには、ドリップ式、プレス式、水出し式などさまざまな抽出スタイルでお気に入りのコーヒーが味わえる、こだわり派やプロのための耐熱ガラス器具と周辺機器が充実しています。

ハンドドリップの名品ドリッパー「V60」を生んだ工場へ

HARIOが世界のコーヒー好きの注目を集めたのが、特徴的なシルエットのV60透過ドリッパーです。
従来のドリッパーとの違いは、角度60度・V字型の円錐形。そして、底には大きめの穴が1つだけ。
しかも、その穴に向かってスパイラル状の凸ラインが施されています。
この形状により、粉の層が厚くなり、周囲の凸ラインがペーパーフィルターの密着を防いで空間を作るので、粉がしっかり膨らみ、豆のうま味や繊細なフレーバーを十分に抽出できるのです。
あとはドリップする人のタイミングや注ぎ方で味わいを調節でき、ハンドドリップの醍醐味がたっぷり楽しめます。

斬新なアイデアとスタイリッシュなシルエットの「V60」は、著名なコンテストでもトップバリスタたちに愛用され、SNSでまたたく間に世界に拡散されて、今やハンドドリップではスタンダードとなっています。

今回はそのHARIOの工場をレポートしました。

日本で唯一、耐熱ガラスを素材から作るHARIOの古河工場

HARIOの工場があるのは茨城県古河市。
日本で唯一、耐熱ガラスを原料から製造しています。
外観がまたユニーク。それまでガラス工場には欠かせなかった、排ガスのための煙突がありません。
爽やかな青空のブルーに彩られた建物が、環境にも働く人にもやさしくありたいという、HARIOのこだわりを物語っているかのようです。

建物沿いの植え込みから、さりげなく出迎えてくれたのはガラスアートの小鳥たち。工場全体から、働くことを楽しむ空気を感じます。

社員の人育てにも熱心な、温もりのある社風を実感

工場を案内してくださるのはHARIOの代表取締役副社長、内藤忠志さん。

まず、ロビーで工場やプロダクト全体の説明をお話ししてくださいました。

古河工場の全景を250分の1で表現したこのジオラマは、社員の方の手作りなのだそう。
広い敷地には、メインの工場だけでなく、HARIOの歴史を物語るミュージアムや、ガラスのアクセサリーを手作りするHARIOランプワークファクトリーもあります。

この古河工場で働く社員の方には、もう1つの大事な“業務”があります。
1年に1日以上、ボランティアとして社会に貢献する活動をして、その時の様子を写真とともに社員の前で報告するというもの。
HARIOはものづくりだけでなく、人育てにも力を入れている会社なのですね。

煙突のないガラス工場のヒミツは、日本初の電気式ガラス溶融炉

一般にガラス工場といえば、原料にともなう粉塵と高熱で溶かすための重油の煙が発生します。
ところが、HARIOの古河工場はクリーンな空気に包まれています。
そのワケは、ガラスの原料をベルトコンベアで運ばず、あらかじめミキシングしたものをパッケージで密閉して移動させるから。
そして、日本で初めてガラス原料を電気で溶かす技術を開発し、脱煙突を実現させたのです。

急熱・急冷に強いHARIOの耐熱ガラスは、天然素材100%

「耐熱ガラスの原料は砂なんですよ」と、原材料のサンプルを手にする内藤さん。
耐熱ガラスは地球上の砂の主成分である珪砂(けいしゃ)、つまり二酸化ケイ素SiO2を主体に、硼砂(ほうしゃ)・硼酸(ほうさん)・アルミナという鉱物由来の素材を加えて作られます。

一般的なソーダガラスに比べて、熱による変化が少ないために急熱・急冷しても割れにくく、酸やアルカリにも強いという特長があります。
HARIOでは赤ちゃんのほ乳びんも作っているので重金属は一切使わず、泡を消すための泡きり剤にも天然塩を使用。
HARIOの製品は天然素材100%の耐熱ガラスなのです。

また、この砂は99.8%精製され不純物がほとんど含まれていないので、清潔で安心・安全。
子ども用の遊戯施設やイベント会場などでも活用されています。

大きなものや複雑な部分は職人さんのハンドブロー(手吹き)技術で

オートメーション化を積極的に進めているHARIOの工場内でも、例えば丸底フラスコや耐熱ガラス管といった特殊な製品は、職人さんの手吹きで作られます。
ガラスを溶かしている溶融炉の温度は約1600度。
鉄製の管でできた吹き竿を回転させて、先端に溶けたガラス種を巻き付け、空中で吹いて空気を送り込みながら、規定の大きさと均一な薄さに仕上げます。
まさに熟練のワザ!

コンピュータ制御のロボットが先人たちの技術の粋を再現

HARIOの工場はコンピュータ制御で可能な限りオートメーション化されています。
ガラスの溶融炉で休みなく溶かされた原料は、自動成形機でガラスに空気を吹き込むブロー成形で形づくられ、ゆっくりと冷まされてひずみのない安定した形になります。
創業から今日までの技術や知恵は、プログラムという形で職人から機械に引き継がれ、活かされているのです。

内藤さんは「職人とその技術がなければ、ロボット化することはそもそもできない」と言います。
精巧に量産されるものづくりは、途切れることなく磨かれ受け継がれてきた技術の賜物なのです。

また、ポットなどの目盛りや数字は、ガラス質の微粉を炉で溶接します。
ガラスの上にはガラスで印刷する、これも培われた技術の1つなのですね。

コンピュータと人の目によるダブルチェックでHARIO品質を確認

オートメーションの流れのさまざまな工程で、製品は自動的に品質管理され、泡やコンマ1mm(0.1mm)の誤差があれば、はねられていきます。

また、最終的には人の目でチェックされ、合格したものだけが製品として、仕上げの工程に入ります。
はねられたものはきちんとリサイクル。細かく砕かれカレットと呼ばれる原材料として、再び溶融炉に戻されます。

世界80カ国以上ものHARIOを待つお客様のもとへ

古河工場の敷地内にある広大なHARIOの物流センターでは、多種多様な製品が出荷に向けてスタンバイしています。
ここからアメリカ、ヨーロッパ、アジア、中東など世界70カ国以上に向けてHARIO製品が送り届けられます。

HARIOのサイフォンを展示したミュージアムも。

敷地内にはサイフォンの歴史や構造がわかるミュージアムがあります。
昭和のレトロ感が漂うサイフォンや、新しいサイフォンまでが展示され、HARIOの歴史を感じます。

蒸気圧を利用してコーヒーを抽出するサイフォンの原理は、19世紀のヨーロッパで考案されました。
耐熱ガラス製の2つのボールの、上にコーヒー粉、下に水を入れてアルコールランプなどで沸騰させます。
下のボールから熱湯が上のボールに沸き上がり、火を外して抽出を止めると気圧が下がり、できあがったコーヒーが下のボールへたまる仕組み。
その眺めも、広がるアロマも楽しめるスグレモノ。
HARIOには業務用だけでなく、サイフォンコーヒーファンのための1杯用や2杯用の小ぶりサイズもあります。

耐熱ガラスでハンドメイド・アクセサリーを作る「ランプワークファクトリー」

HARIOの敷地内に、小さな工房「ランプワークファクトリー」があります。
そこで作られているのは、耐熱ガラスを素材にした手作りのアクセサリー。
リング、ピアス、ペンダント……限りなくピュアな透明感と繊細な手仕事から編み出された新しいHARIOの製品分野。
使うモノだけでなく、身に着け飾るモノへと新たな広がりが生まれています。

ランプワークの技術が身に付くと、アイデアが自然に湧いてくる

「ランプワーク」とはバーナーの炎でガラスを熱しながら、職人の手でていねいに造形する昔ながらのガラス細工法。
いわばHARIOの原点です。

その技術を絶やすことなく継承するために生まれたのが、「ランプワークファクトリー」。
手作りすることでスキルアップして、自然に次はこんなデザインを、こんな技法を、とクリエイティブな好奇心が刺激され、作るほどに面白くなるのが、この仕事の魅力だそうです。

このファクトリーが生まれたのは、東日本大震災の直後に起こった停電がきっかけでした。
溶融炉で溶かしていたガラスが固まって、廃炉となり、その固まったガラスを何とか活かしたいと工夫する中から、ランプワークに再びチャレンジすることになったのです。

耐熱ガラスだからできる繊細なデザインや軽い着け心地

HARIOの耐熱ガラスは、熱に強いだけではなく、伸ばしたりつないだり、自在に加工できます。
その特長が繊細な表現に活かされているのです。
しかも耐熱ガラスは他のガラスに比べて比重が軽いため、身に着けてもストレスがかからず、肌へのあたりもやさしいとのこと。

「ランプワークファクトリー」は、東京日本橋の本部に加えて、ここ古河をはじめ全国6カ所にあり、作るだけでなく、強い衝撃などで割れてしまった場合の修理もしています。
ファクトリーの1つが、北海道上川郡上川町の大雪森のガーデン内にある工房。
冬場は雪に閉ざされる町に、冬でも技術を活かし伸ばす職場ができたのです。

世の中にまだない素敵なモノを提案していく、それがHARIO流

HARIOのチャレンジシップの象徴といえるものが、耐熱ガラスで作られた楽器でしょう。
これまでに培ってきた最高と自負するガラス工芸技術を注ぎ、世界初のガラスのバイオリンの製作に成功したのは2003年のこと。
続いてチェロや琴、尺八とアイテムが広がり、音色と共に美しい透明感や装飾で世界を驚かせました。

若い人の発想を取り入れて生まれた人気のブラックシリーズ

HARIOでは、商品開発に若い社員たちの発想や提案を積極的に取り入れる仕組みがあります。
そんな中から生まれたのが、ブラックシリーズ。
コーヒータイムをカッコよく楽しみたいというニーズにぴったり合って、予想以上の反響があるそうです。
WORLD BREWERS CUP2016年度のアジア初の優勝者・粕谷 哲氏プロデュースによる「粕谷モデルシリーズ」も高い人気を誇っています。

V60透過ドリッパーから広がる異素材へ、周辺グッズへ

耐熱ガラス製から発展して、V60透過ドリッパーには、有田焼の磁器製、よりスタイリッシュなメタル製など、好みに合わせて選べるラインナップが広がっています。
抽出したコーヒーを受ける独特のフォルムのサーバーも人気アイテム。
フタをしたまま電子レンジにかけられる、耐熱ガラス製ならではの機能も備えています。
また、「V60」に合う形状の自社製ペーパーフィルターやケトル、湯温計など、豊富な周辺グッズもハンドドリップの楽しみを彩ってくれます。

身近な紅茶や緑茶などティー好きのためのアイテムも多彩に

たとえばワイングラスのように、お茶の色やアロマを楽しめる「耐熱フレーバーグラス」。
ティーバッグの糸を引き上げて固定できる帽子が付いた「ティーハット」ポット。
水出し緑茶の新しい楽しみ方を身近にしてくれる「フィルターインボトル」。
HARIOのアイテムが新しいお茶の楽しみを広げてくれます。

商品開発はHARIOの伝統、つねに新たな可能性へのチャレンジ

HARIOでは、商品開発提案をつねに前向きに受け入れる仕組みがあるそう。
提案した社員には、趣旨に賛同する販売担当の社員が付いて、提案を具体化し、どうすれば魅力的な商品になるか、どんなルートで販売するか、といった商品化のプランを社内の審議会でプレゼンします。
まるで小さな会社を立ち上げるようなチャレンジを通して、HARIOの「世の中にまだない素敵なモノ」を生み出す土壌が厚みを増していきます。

工場見学を終えて、「くらしと」取材チームは、工場の一角にあるカフェスペースでHARIOのサイフォンで入れたコーヒーをいただきました。
雑味のない、まろやかでスッキリした味わい、口から鼻腔へと広がるアロマ。文句なしにおいしい!

1杯のコーヒーのように、日常を満たす幸福感こそ、HARIOが追求する付加価値なのだと感じた取材でした。

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執筆: くらしと編集部

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